労働者たちの悲惨な現実を変えようと、韓国の労働運動と民主主義の始まりを率いた青年労働運動家全泰壹。美しい青年チョン・テイル記念館は、全泰壹の活動の歴史的な意味をあらためて考えようと、2019年3月に開館した労働複合施設。
ここでは、韓国のめざましい経済発展に大きな役割を担った衣料業界の労働環境、韓国の労働運動、民主主義がどのように広がってきたのかを垣間見ることができる。
美しい青年労働者 全泰壹
チョン・テイルは、清渓川平和市場の縫製工場で働いていた労働者。「労働者は機械ではない」と声を上げ、少ない給料、長い労働時間、劣悪な労働環境の改善を求める活動をしていた。
現代では当然と考えられている権利は、ほんの数十年前、いえ数年前でも当たり前ではなかった。労働者の権利、パワハラ、セクハラ、学校内での暴力やいじめも。今だって声を上げればもみ消されることもあるし、あったことをなかったことにしようとする人たちがいる。1960年代に、何ができただろう?
全泰壹は今から49年前、1970年11月13日「勤労基準法遵守」を叫び焼身自殺をし、22歳で亡くなった。どんなことでも始まりがある。この事件で、すぐに労働者の権利が認められたわけではなかったが、労働問題に対して社会が覚醒するきっかけとなった。
平和市場縫製工場の実態
1970年当時、全泰壹が働いた平和市場を含めた清渓川一帯の市場3か所のみで、全国の既製服需要の約70%を占めていた。平和市場一帯が韓国の衣料産業の発展の中心地となり、全国の衣類小売商が集まる大規模な卸売り市場になったのは、低賃金、長時間労働の劣悪な環境で働く労働者の犠牲があったのです。
チョン・テイルの母 イ・ソソン オモニ
息子の意思を受け継いで清渓被服労働組合を作り、自主的な民主労働運動を続けた。
全泰壹が夢見た模範的な縫製工場の職員用仮想図書館。本は自由に読むことができる。
映画「美しい青年全泰壹(아름다운 청년 전태일)」(1995)
労働者が健康に働き、学ぶことができる「人」を中心とする世界をつくるためすべてを捧げた。1994年には全泰壹の人間愛の精神を広く知らせようと映画「美しい青年全泰壹(아름다운 청년 전태일)」(1995公開)が製作された。記念館の名前はここからつけたと思われる。
この映画は、8千人を超える国民の募金方式で製作されたそうで、とても韓国人らしいと思う。映画の放映終了後、支援したすべての人に後援金を償還し、後援会員には毎月活動を伝える冊子が送られ、行事もおこなわれている。
韓国の民主主義
韓国は1960年代から大きく変わり、国民一人ひとりが立ち上がり声をあげることができるのは、今の韓国では当たり前のこと。一人の声も力になることを、韓国では実感としてかんじられる。
何も変わらなかった時代から声をあげ続けた人たちがいて、労働者の権利は当然のものになり、韓国は民主主義国家となった。この美しい青年チョン・テイル記念館を、いまソウル市が建てたということに深い意味がある。
美しい青年労働者 全泰壹が再び生きてきています。彼の愛と連帯そして行動が復活しています。 全国で初めて建てられる、全泰壹が息づく全泰壹記念館はユニオンシティソウルの象徴であり中心となるでしょう。多くの学生たち、労働者たちの労働人権教育の場になるでしょう。私たち市民全員が労働の価値に気づき、労働の意味を理解して学ぶ文化の殿堂になるでしょう。
引用:美しい青年 全泰壹記念館ウェブサイト
美しい青年全泰壹記念館は鍾路3街、清渓川が目の前に流れる場所にあります。入口には日本語の各種リーフレットが用意されていて、見学は無料です。
Address
서울특별시 종로구 청계천로 105
ソウル特別市鍾路区清渓川路105
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